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2009年 06月 03日
理想と制度
理想と制度_e0130549_1161095.jpg人間の不可侵の権利を保障するために政府があると述べた『アメリカ独立宣言』と、人間が天使であるのなら政府など必要ないと述べた『ザ・フェデラリスト』の間にある距離は、革命の第一幕である理想に基づいた旧制度の破壊と、第二幕である現実に基づいた新制度の創造という革命の二面性を表している。

そしてアメリカ革命が成功であるとするならば、この理想と制度の峻別こそ成功の要因で、フランス革命が失敗であるとするならば、この理想と制度の同一視こそ失敗の要因である。革命の指導者は情熱的な芝居で始った第一幕がやがて現実的な芝居の第二幕へ移行することを、予めその脚本に書込んでおかなければならない。

だがフランス革命で凄惨を経験したにも拘らず、その後のヨーロッパ大陸の政治思想史は──ドイツ民族社会主義しかりソヴィエト共産主義しかり──人間の理想と制度が一直線上にあることを証明しようと繰返された実験の記録で、そこに書き残されたのはそれら実験が尽く失敗に終ったという落胆のみである。

その落胆は私達に、人間を理想の法廷に引きずり出して、その自己本意で不埒な性根を叩き直すことなど出来はしないこと、むしろ人間の為すべきは、その自己本意で不埒な性根に沿った制度を構築すること、それが理想の側から見ていかに低級で苦々しくとも、理想による制度よりは遥かにましであることを教えている。

ましてそれが対岸の火事ではなく、近代の日本人にこそ熟慮されるべきであることは、早くは明治後期のプロレタリア運動から続く様々な左派陣営に対してだけではなく、これに対立してきた儒教的な日本主義以来の様々な右派陣営に対しても──彼らが理想と制度の峻別を知らないために──同じである。

そして現在の反中嫌韓現象が時務情勢上どうしても必要な運動であるとしても、それが成功した暁にどのような制度が構築されるべきかという点について、日頃侮蔑するGHQ民主主義の部分的な改良以外に答を用意し得ないことは、結局のところ民主主義が理想による制度であるという根本問題に目が向かないためである。

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by hishikai | 2009-06-03 11:13 | 憲法・政治哲学


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