2009年 06月 06日
夜がくる
e0130549_14391952.jpg高校の授業を終えるとパブに行く。その店の往来に開け放った扉を入ってすぐ右側の窓際に座る。ガラス一ぱいに当たる夕日の光の中を、買物カゴを下げたおばさんのエプロンや、小学生の乗った小さな自転車が流れていく。J.G.ワトソンのWhat the Hell Is Thisの向うから「学生服は脱いでくれ」とマスターの声がする。

向いに座った級友の視線を追って振り返ると、黒い髪をボブにして、素肌に紫色のVネックセーターを着た細身の女の人が立っている。他の人は彼女を「なおちゃん」と呼ぶ。あまり話をしない。なおちゃんは僕らのテーブルにI.W.ハーパーのボトルとグラスを置く。その前屈みの胸元を見て耳まで熱くなる。

地下室のバーは私鉄の線路に沿った暗い路地にある。目立たないビルの、防空壕のような入口から地下に向かって階段がずっと延びて、その降り切った先の細長い場所に、眩しい裸電球に照らされた木のテーブルと椅子が並んでいる。片隅の椅子に座ってE.タイムスを飲む。真中の椅子では猫が寝ている。

しばらくすると仕事を終えた大人達が一人ずつ階段を降りてくる。ファニア・オールスターズのLive At the Cheetahが流れる。強烈に辛い料理をマイヤーズダークで流し込んでいる。笑い声と尽きない音楽の話。それを片隅で聞いていると、やがて時計の針が朝を告げる。階段を見上げると四角い青空が見える。学校に行く。

歌謡曲の文句ではないが遠くに来た。ここで「夜がくる」を聴いて滲々そう思う。オリジナル・ヴァージョンは哀しい。というわけでサントリー・オールドを買ってきた。今夜はこれで一杯やろう。まったく、すぐに影響されるので困る⋯。

by hishikai | 2009-06-06 15:07 | 日常


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