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2008年 05月 17日
誰の物語を信じるのか
誰の物語を信じるのか_e0130549_11352222.jpg他者に影響を与える能力をパワーという。国際社会における国家間の優劣の関係は、その国家が保有するパワーの強弱に深く関連し、パワーの強弱は原泉となる資源の質に深く関連している。強力なパワーの保有は国際的なポーカーゲームで有効なカードを持っていることと同じである。

パワーには命令するハードパワーと魅了するソフトパワーとがあり、20世紀までの国際社会では軍事力に代表されるハードパワーが主役であった。この資源は人口・領土・天然資源・経済規模である。しかし国際法の整備による一方的な開戦の困難、大量破壊兵器の拡散懸念による戦争コストの上昇という要因により、21世紀の国際社会ではソフトパワーが主役の地位を獲得しつつある。

従来のソフトパワーはイデオロギーや文化的魅力を指したが、現在では民主的自由や人権の尊重が主流となっている。これは人間の生命維持に短期的かつ直接的に関連するために従来のソフトパワーよりも説得力が強く、カードとして遥かに有効である。

この新しいソフトパワーの資源は信憑性である。第二次湾岸戦争で開戦の理由とされたイラクの大量破壊兵器に関する情報の信憑性が失墜すると、ブッシュ政権は開戦の理由を自由と民主主義の擁護に転換したが、もはや世界はこれを言い訳としか受取らなかった。

これは情報の信憑性の失墜が、アメリカの自由と民主主義の信憑性の失墜に繋がったことを意味する。アメリカはこの件で自らのソフトパワーの資源を毀損したのだ。「誰の物語を信じるのか」現在の国際社会で争われているのはこれである。

この信憑性を高めるために最も重要なのが、被害者であるか加害者であるかという立場の取り方で、当然の事ながら被害者の告発は信憑性が高いと受取られる。そして次に重要なのが情報の透明性の確保である。情報の不確かな中古車は値切られやすいが、情報を公開した中古車は少なくとも真価で売ることができる。

中国はチベット問題の対応をこの二つの点で誤った。彼らは加害者となり、報道規制により情報の操作を行なおうとした。しかしその結果先進諸国に有効なカードを与えてしまった。先進諸国の人権尊重というロイヤルストレートフラッシュと中国の排他的愛国心というハッタリが対峙したが中国に勝ち目はなく、北京オリンピックを目前にしてこの誤りは決定的に見えた。

今回の四川大地震で中国は情報を公開し、被害の大きさを世界に発信している。今や彼らは被害者であると同時に情報の公開者である。中国メディアは温家宝首相が被災地を回り涙する姿を報じているという。しかし人間の涙は悲しい時にだけ流されるのではない。私達はそのことを忘れずに、この悲惨なニュースに接する方が賢明だろう。

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by hishikai | 2008-05-17 12:12 | 憲法・政治哲学


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