2008年 11月 20日
『最後の授業』(アルフォンス・ドーデ作)より要約
e0130549_12564992.jpgその日の朝、僕は走っている。学校に遅刻しそうだ。暖かいよく晴れた日、森でツグミが鳴いている。途中にある小さな掲示板の前に人だかりがしている。広場を通り抜け、学校になっているアメル先生の家の小さな庭に息せき切って飛び込む。けど教室に入るといつもと違って静かだ。もう席についている友だちの顔が見える。

アメル先生は終業式にしか着ない、立派な緑色のフロックコートを着て、細かいひだのある胸飾りを付けている。教室の後ろには、村の人達が生徒と同じように静かに座っている。もとの村長さん、郵便屋さん、それからいろいろな人達。オゼールじいさんは、ぼろぼろになった初等読本を開いている。アメル先生は言う。

「みなさん、私が授業をするのは今日が最後です。ベルリンから命令が来て、アルザスとロレーヌの学校では、ドイツ語以外の言葉を教えてはいけないことになりました。明日、新しい先生が来られます。今日はみなさんにとって最後のフランス語の授業です。どうか一生懸命聞いて下さい」

やがて授業が始まり、僕の名前が呼ばれる。むずかしい動詞の規則を暗唱しなくてはならない。これを大きな声で、はっきりと、一つも間違えずに言うためなら僕はどんなことでもしただろうに。でも僕は自分の席で立ったまま、体を左右にゆするだけで顔をあげることもできない。アメル先生の声がする。

「フランツ、先生は君を怒りはしない。これで君は十分に罰を受けた。私達は毎日こう思う(まだ時間はたっぷりある。明日勉強しよう)とね。その揚句がご覧のとおりだ。先生だって非難されるところがないとはいえない。君達に庭の水撒きをさせたり、鱒を釣りに行きたくなれば簡単に学校をお休みにしたのだから」

そこでアメル先生はフランス語についての話を始める。フランス語は世界で一番美しい、はっきりした、しっかりした言葉であること。だから僕たちでしっかり守り続け、決して忘れてはならないこと。なぜなら民族が奴隷になったとき、国語さえしっかり守っていれば、自分達の牢獄の鍵を握っているようなものなのだから。

それから先生は文法の本を読み始める。そして習字、お手本には「フランス、アルザス、フランス、アルザス」と書いてある。聞こえるのは紙を走るペンの音だけだ。庭のクルミの木は大きくなり、先生が植えたホップは窓から屋根まで花飾りを付けている。発音の練習ではオゼールじいさんの声も聞こえる。震えている。

そのとき、教会の大時計が正午を告げ、そして窓の下にプロシア兵のラッパが鳴り響く。アメル先生は、はっとして立ち上り何かを言おうとする。

「みなさん⋯私は⋯私は⋯」

だけど何かが先生の咽をつまらせて、先生はそこまでしか言えない。先生は黒板の方を向くとチョークを一本取り、全身の力を込めて大きな字でこう書いた。

フランス万歳!


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by hishikai | 2008-11-20 13:08 | 資料


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