2009年 02月 16日
梅は咲いたか 桜はまだかいな 柳ゃなよなよ風しだい 山吹ゃ浮気で 色ばっかりしょんがいな(梅は咲いたか/小唄) 『梅は咲いたか』は端唄かも知れない。と思うのは小唄が幕末から明治に興り、主に清元節の演奏家たちの作品であるのに対し、端唄は各地の流行歌が江戸化したもので、小唄より庶民に愛好された為だが、実際には殆ど同じで江戸の俗謡といえば間違いない。通りが良いのでここでは小唄と云う。 ここ数日のように暖かくなり梅の花も満開で、その青味走った清々しい香りが浅い春の訪れを告げる、そんな時にぶらぶらと土手道などを歩くと、思わず鼻唄にのぼるのがこの『梅は咲いたか』で、これを唄えば少しばかりの冷たい風も不思議と粋に感じられる。 この唄は詞の内容からすれば、茶碗叩いてチャンチキとやりたいところだが、実際にはテンポも緩く唄も平板な、過ぎ去った春を回想するような調子で唄われるもので、私もお師匠さんから最初に教えて頂いた時には、古い芸能とはこういうものかと少し驚いた。 このことは桃山晴江のCD『うたづくし』でも確認することが出来、その解説でご本人が「ここに収めた曲は、どれも懐かしい故郷の景色と風情、情緒、粋、⋯(後略)」と仰っていることからも、その緩い調子が小唄の古形であることが知られる。あるいは谷崎潤一郎もこんなことを書いている。 長唄は声の出し方が素直であるからまだいいとして、昨今はまた小唄が流行り出している。あれは江戸唄の中でも殊に江戸的特色の濃いもので、最も末梢的、廃頽的な感じのものだ。ああいうものは東京人でも一般向きがしないというのが本当で、長唄を和歌とすればあれは俳句だ。(私の見た大阪及び大阪人/谷崎潤一郎) 追記 ちなみに『梅は咲いたか』の出だしの「梅」は「うめ」ではなく「んめ」と唄う。日本語の「ん」にはm音とn音とがあり、この場合はm音から始める。古文にも「梅」は「むめ」とある。
by hishikai
| 2009-02-16 12:36
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