2009年 04月 01日
『よしわら』より 佛だん
e0130549_150232.jpg佛だん S店 澄子

わたしの四畳半のへや──。床の間には、菊の花がいけてあり ちがい棚にはガラスのケースの中に はなやかな人形もかざられてありますのに なんだかわたしには、もの足りないのです

スーパーも、時には、にぎやかになりたてて さびしいはずもないのですが── やつぱりわたしはさびしくてなりません それは わたしの小さなねがいが果たされないからです

さまざまの苦しみにたえてきたわたしという女のあしあとが この部屋で消え去り わたしのいじけた、しぼんだ心が あきらめといつしよにふくれあがつたとき わたしはねがうようになつたのです

この色とりどりの部屋のどこかに わたしの父母たちの位はいをかざりたいと。 古びて、すみの色もにじんだおいはいですが わたしにとつてはなつかしい親たちなのです

「とんでもない。ブツダンなんて── そりアね こおいう部屋にかざつておくもんじアないよ」 おばさんは、いいました 「そりアねあんたの心の中にかざつておくもんだよ そつとね」と。

わたしは心の中に、おいはいをもつているのは重くて仕方がありません。 わたしの心の中だけではとても ささえきれません この部屋の誰の目にふれないところ 押入れの片すみでもいい。 

この古びた父母の位はいを かざつてみたいのです ひそかにささげた線香のにおいが この部屋にただよう日のことを わたしは思つてみるのです。

(よしわら/大河内昌子 編)

by hishikai | 2009-04-01 15:02 | 資料


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